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Selfishly

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素直になれなくて(完結)


「素直になれなくて(完結)」


~ 誰かじゃなくていい、君だから。

  愛想なしで、口が悪くて、ついでに態度も悪い。

  そんな君でいい。

  それが、私が愛した君自身なのだから。~



~ 素直になれなくても、もう いいんだ。

  今は 笑い返せない意地っ張りな俺だけど、

  優しい言葉に、素直にありがとうと言えない自分だけど、

  1歩、近寄る勇気が持てなかった 臆病者だったけど
 
  でも、こんな俺でいいと言ってくれるアンタがいるから、

 もう、素直になれなくてもいいんだ。 ~



「もう! 兄さん。

 一体、どう言う事なわけ~!」

苦労したのにと憤慨するアルフォンスに怒られながらも
エドワードは、一向に反省をする様子もない。

「ってもさー、俺だってわかんねえよ。

 起きたら、いきなり お前はネコになってたんだって

 言われても、何言ってんのって感じだぜ。」


エドワードは、その後 丸一昼夜 昏々と眠り続け
起きたときには・・・全て記憶には残っていなかった。

アルフォンスが 探し出してきた術者は気のいい男で
エドワードに 店を崩壊させられた事を根に持つ事無く
「良かったな~。」と笑って、あっさりと許してくれたようだ。

「あれだけ皆に迷惑かけて、心配させといて
 自力で直りましたなんて、非常識すぎるよ~。」

「非常識すぎるって・・・あのなぁ~、
 俺にしてみれば、俺がネコになってたって
 言うお前の方が非常識なんだよ。」

兄弟喧嘩が始まりそうな中を
間に入って調停してくれているのは
あくまでも人の良い術者だ。

「まぁまぁ、良かったじゃないか 術が解けて~。

 いやぁ~俺も まさかネコになるとは
 思って無くてさ。
 その後、ちょっと心配してたんだ。

 まぁ、術は そう深くかかけてるわけじゃないから
 何とかなるだろうとは思ってたけどねー。」

「ねーじゃねえ!
 
 あんた迷惑なんだよ。
 そんな危ないこと、よくやってるよな。」

「いやぁ、普通は 少し自分が良く思えるようになる位なんだよ。

 君みたいに、全く違う生き物になったのは
 俺も始めてみたよ。

 よっぽど、ネコが好きだったんだな。」

朗らかに言われた言葉に、エドワードが「さぁ?」と
妙な表情で曖昧な相槌を返す。



大騒動の結果は、あっさりと幕切れとなった。
術の後遺症とかは、全く心配ないと言う事もあり
それぞれが、やっと戻ってきた日常にほっと一息を
つけるようになる。

術者の男も、アルフォンスが 店を元に戻してくれる事なり
無事に古巣に戻れる事となった。
二人して乗り込む列車を待つのに
エドワードとロイが見送りにホームまで来ている。

自分が壊したんだから、自分で戻しなよと言うアルフォンスの言葉に
そんな危なげな店は無いほうがいいんだと息巻くエドワードが
二人の同行を拒否したため
このまま、アルフォンスの帰りを待ちながら
情報収集に勤しむ事にしたようだ。

列車から少し離れた位置で、言い合いをしている兄弟を見ながら
術者とロイが、のんびりと話をしている。

「で、彼は 自分の願いを叶えれたんでしょうね。」

「願い?」

「そうですよ。
 彼の術をかけるときに使われたキーワードは
 彼自身が望んだ願いを叶えれたときに
 術が解けるようになってましたから。」

「そうだったんですか・・・。」

ロイは、この数日を思い返して
言葉少なに返事を返す。

「でも、よっぽど 叶えたかったんでしょうねぇ。

 普通、暗示位で別の生き物になんて

 人が成れませんよ。

 彼自身の意思が、余程強く働いたんでしょうね。」

「そうですね。
 彼は、とても意思が強い人間ですから。

 きっと、願いは叶ったはずです。」

彼が願った事は、ほんの少しだけ自分が素直になる事だった。
たまたま、その対象となって具現化したものが
以前 見た子猫だったのには
ロイも驚いたが、少しでも ネコになっていた間、
エドワードが幸せだったのなら いいのにと思う。
自分は 少なくとも、この数日間
多分・・・いや、かなり幸せだった。
もう2度と、無い短い夢だったとしても。

思いに浸るロイを余所に、
列車の出発の時刻に、言い合いをしていた二人も
アタフタと走りよってくる。

「じゃぁ、僕 ちょっと行って来るけど
 兄さん、ちゃんと大佐にお礼言うんだよ。

 大佐には、本当に 一杯迷惑かけたんだからね!」

「へいへい・・・、わかりましたよ。」

不満そうな態度と口調丸出しで返事をするエドワードに
アルフォンスのお叱りの言葉が、また飛ぶ。

今回は、自分に分が悪いとわかっているのか
渋々と頷くエドワードに
アルフォンスも やっと溜飲をおろしたようだ。

走り去る列車を眺めながら、
ロイは ぼんやりと今日からの事を考える。

数日しか過ごさなかったエドワードとの日々は
短い時間とは思えないほど
ロイの生活の中心となっていた。

『今日からは、また独りに戻るわけだ。』

独りだった事を寂しいと思ったことはない。
逆に、家に一緒に人がいるなんて
とんでもないとも。

そんな自分が、この数日ですっかりと変わってしまった事を
ロイは 気づいてしまった。
気づくと無性に寂しくなる。

『こんな気弱な事で、エドワードに誓った事を
 守れるんだろうか・・・。』

エドワードは忘れてしまっているが
ロイは、エドワードを抱いた晩
明日からは、いつものとうり接していく事を誓ったのだ。

その誓いを、もうすでに破りたくなる自分に
ロイ自身、困惑している。

「・・・くれよな。」

エドワードが 話しかけてきたのも
聞き逃すほど、ロイは自分の心中の感情に囚われていた。

「えっ?」

急いで聞き返すと、エドワードがあきれたような表情で
ロイを見上げる。

「んだよ、聞いてなかったのかよ。」

少し不貞腐れたように、口をすぼめて
エドワードが不満顔をする。

「あっ、ああ、済まないね。

 ちょっと、考えごとをしていて。」

ネコ化していた時とは、全く違う態度と表情に
本当にエドワードは、戻ったんだなと実感させられる。

それは、嫌な事ではなく
彼らしいと思うと、思わず安堵感が浮かんで苦笑を浮かべる。
 
『おかしなものだな、私も。

 素直な彼よりも、素直でないエドワードを見て
 安心するとはな。』

そんな事を考えながら、エドワードに聞き逃した話を聞き返す。

「で、何だって?」

「ああ、あのな
 今まで泊めてくれてたんだろ?

 ついでに、アルが戻るまで
 アンタん家に泊めてくんない?」

「えっ!?」

ロイは、自分の思いを見透かされたようなエドワードの頼みに
驚きすぎて、返す言葉に詰まる。

「んだよ、そんなに迷惑かよ。」

驚いて固まっているロイを見て
嫌がられてると思ったエドワードが、
目を眇めて睨んで来る。

「いいじゃんか、今まで泊めてくれてたんだから
 後1日や2日くらい。」

ぷっと頬を膨らませて拗ねるエドワードが
妙に可愛くて、ロイは 思わず頬を緩ませてしまう。

「いや・・・、すまない。
 別に嫌だったわけじゃないよ。

 ただ、君が そんな事を言い出すのが
 珍しくてね。」

「そっかぁー?」

そんなにおかしな事を言っただろうかと、
エドワードが首を捻って考え込む。

「私がお茶に誘っても、時間の無駄とばかりに
 断られてばかりだったじゃないか。

 その君から、泊めてくれなんて言われれば
 私で無くとも驚くさ。」

ロイの言葉を聞いて、
そう言えばそうだよなぁとエドワードも不思議そうにする。

「んーでも、何か 妙に あの家
 気に入っちゃったんだよな。

 落ち着くってのか、ホッとするって言うのか。」

自然に そんな言葉を告げるエドワードに
ロイは 心の奥に灯る想いが、ポッと温かくなった。

『では、少しは 彼にも幸せな時間を過ごせたと
 言う事なのだろうな。』

自分だけでなく、エドワードも 
そう感じていてくれた事にロイは
優しい気持ちになる。

「ああ、私は全然 構わないよ。
 
 君が気に入ってくれたのなら
 いつでも来てくれて構わないさ。」

「そっかー?
 ありがとう。」

そう言って、ニコリと笑う顔を見せるエドワードに
ロイは、また 内心で驚く。

素直にエドワードが礼や笑みを見せる事等
悲しいかなロイには、あまり経験がなかった事だ。

もしかしたら、ネコ化した事は
少なからず、エドワードに何か影響を及ぼしたのかも知れない。

二人で連れ添って帰る道すがら
夕食は どうするのかや
ロイが持っている本は読んでいいのかと
聞いてくるエドワードと
ごく普通に会話しながら歩いていく。

こんな時間が、戻ったエドワードと持てるようになるとは
ロイには考えも及ばなかった。

結局夕食は、エドワードがお詫びにと腕を振るってくれ
なかなかの腕前である事をロイに認識させた楽しい食事の時間だった。

食後、本を読んでいいかと強請るエドワードに
許可を与えると、一目散に書庫に走り去る彼を見て
楽しい時間もここまでかと思ったロイの考えを
あっさりと破るように
エドワードが 気に入った本を持ってリビングに戻ってきた。

「エドワード、ここで読むのかい?」

驚いて聞くロイに、エドワードが驚いたような表情を浮かべる。
何か変な事を言っただろうかと
言った言葉を思い返してみるロイに
エドワードは、照れたように小さく笑う。

「どうかしたのかい?」

その反応に、ロイが 再度、問い返す。

「う・・ん、いや 別にたいした事じゃないんだけど、
 アンタが名前で呼ぶから。

 ちょっと、驚いただけ。」

そう言うと、照れた表情を背けるようにして
ポスンとロイの横に座る。

そう言えばとロイも気づく、
ネコ化していた時に名前で呼んでいたので
ついつい、名前で呼んでしまった・・・が。

ロイは、横に座ったエドワードを まじまじと見る。
照れているのか、首までほんのりと紅くしているエドワードは
別段、ロイが 名前で呼んだ事を嫌がる素振りは見せていない。

エドワードの その態度に、ロイは 押し殺そうとしていた
自分の本音が、期待にうずくのを感じた。

『もし・・もしも、
 彼が 嫌がるようでなければ・・・。』

誓いを破ることになるかも知れないが、
エドワードに、自分の本音を伝えても良いのかも知れない。

そんな期待がロイの中に膨れ上がる。

手を伸ばせば触れれる所にいるエドワードに
ロイは そっと手を伸ばして、
エドワードの髪に触れ、
名前を呼ぶ・・・、愛しさを含ませながら。


「エドワード・・・。」

そうロイが囁くように名前を告げると、
エドワードが、きつい眼差しでロイを睨む。

「それ、反則!」

拒絶にしては、意味不明な言葉に
ロイは、動きを止めて エドワードをじっと見る。

「だって、アンタ 言っただろ?

 明日になったら、元の関係に戻るって。」

そう言うエドワードの言葉に
ロイは 呆然とする。

「君は・・・もしかしたら・・・。」

エドワードの言葉に、ロイは ひょっとしたらと言う
考えを浮かべて言葉を呟く。

「忘れてない・・・。」

ポソリと呟かれた言葉に、ロイは愕然とする。

『覚えていた?
 
 にも関わらず、この家に
 私の所に来たと言うのか・・・?』

ロイが凝視する間、居心地悪そうにエドワードは
うつむきながら座っている。

『ああ・・・、そうか、
 そうだったんだ。』

ロイの中に、唐突に答えが閃く。

エドワードが 、自分がネコ化していた時の事を覚えていて
尚且つ、ロイの所に来てくれたと言う事は・・・。

ロイは、自然と湧き上がる喜びに
いきなり、エドワードを抱き寄せる。

「すまない、気づくのが遅くなって。」

心から、自分のうかつさを反省するように
エドワードに心から謝る。

これは、不器用な彼の精一杯の表現だったんだ。

自分と離れるのは寂しいと、
また、ここに来て ロイの傍に居たいと言う。

溢れる喜びと、
抱きしめる幸せを感じながら
ロイは、押し殺そうとしていた本音を開放してやる。

「エドワード・・・君の事が好きだ。

 愛している。」

そう告げるロイに、おずおずと顔を上げて
エドワードが、嬉しそうに微笑む。
今まで、ロイに見せれなかった笑顔を
もう隠さなくて良いのだと言うように。



素直な子猫は消えてしまったが
ちょっと意地っ張りで、
素直でない不器用な彼が ここに居る。

そして、そんな彼が 傍に居てくれる事こそ
ずっとずっと、ロイが・エドワードが
それぞれ、望んだ事なのだ。

素直でなくてもいい。
そんな自分を好きだと言ってくれる人を待ち望んで。<完>




 
 





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